top title

 

sketch749

NEXT
HOME
BACK

2月26日

NEXT

アンドラーシュ・シフが演奏するベートーヴェン後期ピアノソナタのコンサートに行きました。

柔剛を巧みに使い分けた豊かなタッチやテンポ、強弱などのニュアンスやグラデーションを駆使した美しい響きの演奏を聴くことができました。

ここ2〜3年、迫昭嘉山本貴志ツィメルマンフェルナー可児亜理寺嶋陸也(敬称略)の奏でる32番を聴きましたが、

ツィメルマンとシフの演奏は一回りスケールの大きな音楽に感じました。

中でもシフの演奏は、バッハで鍛えた(?)タッチコントロールで音の響かせ方のバリエーションが素晴らしく

(アンコールで弾いてくれたバッハでは、全くペダルを踏んでませんでした。) これを用いた対位法的音楽構築の表現は一歩抜きん出ていると思いました。

 

ただ、当日はNHKのカメラが入っていた関係か、休憩なしの後期ソナタ3曲連続の演奏で、またフライング拍手が録画されるのを観客が恐れたのか、

3曲終わるまで拍手もなし。(曲が終了してもシフが鍵盤から手をなかなか離さないように見えたこともあって、拍手のタイミングを逃した??)

演奏中のおよそ1時間強の間、会場内は聴衆の“沈黙を守ろう”とするための雰囲気が充満しており、

その妙な重苦しい空気の中で、全員がまるで金縛りにあったかのような緊張感を強いられているかのように感じました。

私は、ライブならではの効果を楽しみにしているシフに気持ちよく演奏してもらうためにも、あれで良かったのか疑問に思い、

終曲の少しの余韻を大切にさえすれば、観客の側にも、良かったら「良かった」という感情表現が許される空気があってもいいと感じました。

(それにしてもシフのタフさは並外れていますね!)

もし、初めてクラシックを聴く人があのコンサート会場にいたとしたら、いくら素晴らしい演奏に接したとしても

会場の雰囲気にコリゴリして二度とクラシックのコンサートには足を運ばないのではないかと思ったほどでした。

そのような理由で、私は「拍手のルール」などに書かれていることに手放しでは賛成する気にはなれないのです。

特に日本人は集団主義になりやすい気がしますので・・・。

 

※追記:当日のNHKの録画を「芸術劇場」で聴き(観)ました。その本番放送前のインタビューで、シフは

「最後の3つのソナタは哲学的で、ピアノという楽器を超越しています。管弦楽的だといえなくもありませんが、むしろ後期の弦楽四重奏曲や

荘厳ミサ曲との共通点を感じます。特に声楽部を連想させる部分が多く、第30番の第5変奏は「クレド」ですし、第31番のフーガは聖歌そのものです。

ベートーヴェンはこの3曲を同時に書いたので、全体で一つの世界が構築されています。3曲通して演奏したほうが、その奥深さが際立つと思います。」

と述べ、3曲連続で演奏したのは、今回シフが意図したことと知りました。(途中で拍手しなくて本当によかった・・・です。)

(また、録画の音質は素晴らしく、あの沈黙の緊張感に耐えた甲斐があったことも感じました。クラシックは聴くほうも体力がいりますね・・。)

「拍手のルール」は関係ありませんでした。お詫びいたします。